キャズム理論を覚えて新規事業の立上げをうまくなろう
新製品でもスタートアップでも、事業を成長させることが目的です。しかし事業を継続的に成長させることは簡単なことではありません。
市場に参入してから十分に事業を拡大するまでには、いくつかの見えない「壁」があります。その一つがキャズムです。
キャズムのメカニズムはキャズム理論として知られています。みなさんはご存知ですか?
キャズム理論は、製品販売戦略・計画に関係する方々にとって覚えておきたいテーマです。
さっそくキャズム理論について説明してまいります。
キャズム理論の基本を知ろう
まずはキャズム理論の概要について覚えていきましょう。
キャズム理論の概要
キャズム理論は、著名な米国マーケティングコンサルタントのジェフリー・ムーアが著書 「Crossing the Chasm」邦訳・キャズム(1991年)で提唱した理論です。
特に急速に市場拡大することが特徴であるハイテク業界では、新しい商品やサービスが市場で大きく広がっていく過程で、大きな2つの買い手のグループ層に分かれてしまうというキャズム(断絶・溝)が起こります。
このキャズムは、買い手によって商品やサービスに求める価値が異なるために発生します。
売上を継続的に拡大する新しい商品やサービスを取り扱う時には、このキャズム(断絶・溝)を超える必要があります。
イノベーター理論に基づくキャズム理論
キャズム理論は、イノベーター理論と大きな関係があります。キャズム理論のベースとなる買い手のグループ層は、イノベーター理論に基づいています。
イノベーター理論は1962年 スタンフォー大学 エベレット・M・ロジャース教授が提唱した理論です。新商品や新サービスが市場へ広がる際に、消費者を購買の特性に応じて、イノベーター、アーリーアダプター、マジョリティ、ラガードの4つのグループに分類しました。
イノベーター理論についての詳細は、「イノベーター理論とは?事例やマーケティングの活用方法で学ぼう」で紹介しております。こちらの記事も合わせてごらんくださいませ。
イノベーター理論では、4つの買い手の市場を経て、新商品やサービスが広がって、やがて製品として成熟していく過程を示しています。
キャズム理論はイノベーター理論の中でも、市場拡大の部分、つまりキャズム理論の図の左側の部分に着目しています。
キャズム理論では「アーリーアダプター」と「マジョリティ」への間では購入動機の価値観に大きな違いがあり、簡単には超えられないということを示唆しています。
どうしてキャズムは起こるのか
キャズム理論が発生するメカニズムについて、もう少し詳しく説明します。
価値観の大きなギャップによってキャズムが発生する
キャズム理論に関連する4つの買い手のグループは、購入する動機や、購入を左右する求める価値が異なります。
キャズム理論における買い手の価値観の違いは、大きくは2つに分類できます。ここでは便宜的に「初期市場」と「普及市場」と呼びます。
キャズム理論の図における左側、つまり初期市場の買い手、にとって重要な価値は「新しい」ということです。
「まだ誰も使っていない」や「周りで見たことがない」という新しさに着目した視点が、買い手にとっての最も大きな価値となり「誰よりも先に使ってみたい」という気持ちが強く購入につながります。
通常、新製品や新商品には、期待と不安の両方の感情を買い手に引き起こします。「初期市場」の買い手は、不安よりも期待が大きくなる傾向にあります。
キャズム理論における普及市場の買い手にとっての重要な価値は、初期市場グループとは対象的に、周りの人もサービスを利用しているという「安心感」や「多くの人が認めているという安定感」に高い価値を感じます。
普及市場の買い手は、新製品には期待よりも不安が大きくなります。そのため新製品が市場に普及して十分な利用者が増え、不安が確信に変わるまでなかなか購入をしません。
製品の提供者(ベンダー)は、市場普及のために、キャズム理論が示す2つの買い手のスイッチング、つまり初期市場の買い手から、販売ターゲットを普及市場の買い手に移行しなくてはなりません。
キャズム理論から学ぶべきこと
キャズム理論では、初期市場から普及市場に移る間には、大きな溝(ギャップ)があることを示唆しています。
キャズム理論のキャズムをスムーズに通過するためには何をすれば良いか学んでいきましょう。キャズムに到達するための方法、キャズムを超えるための方法の2つの視点で考えていきます。
キャズムに到達するために
キャズム理論におけるキャズムに到達するためには、新しいものに好奇心が旺盛な
イノベーターやアーリーアダプター向けの製品メッセージ(バリュープロポジション)を市場に訴求していきます。
バリュープロポジションとは、あなたの会社の製品やサービスを通じて提供する価値(コミットメント)であり、お客さまがあなたの会社の製品やサービスを買う理由になります。くわしくは「良いバリュープロポジションを作る5つのコツ」にまとめました。ご参考になりますと幸いです。
キャズム理論の注意点は、全ての新製品にキャズム理論が当てはまるわけではないということです。新製品を既存市場に展開するなら、最初からキャズム理論における普及市場に販売します。
キャズム理論では、「新製品」ではなく「新市場」が着目点です。
キャズムを超える方法
キャズム理論のキャズムを超えるためには、製品やサービスの効用、機能、メッセージを変える必要があります。キャズム前の初期市場の売り方から、キャズム後の普及市場を目指すために必ず必要なことです。
普及市場では、多くの人が満足する安心感のある商品やサービスがカギとなります。
機能などが目新しいだけではなく、多くの人にとって、使いやすく、ユーザーフレンドリーであることが大切であり、周りに購入者が多いことや安心感という普及市場の買い手の価値観にあう商品、サービスであることが大切です。
安心感は主に、初期市場の買い手の評価が蓄積する、売り手が初期市場の買い手に対して販売実績を積んでいる、などの状態にあることによって生まれます。
普及市場では、多くの人が使っていること、良い評価を得ていること、を中心として商品のバリュープロポジションを作ります。
キャズム理論では、初期市場から普及市場へのマーケティング戦略をうまく変換することが大切ということをわたし達に伝えてくれています。
さいごに
新市場開拓をねらう製品を手がけるマーケティング戦略では、最初は少ないユーザーに受け入れられることから始まり、徐々に評価を固めて、多くの買い手に対して販売していきます。
攻める市場が切り替わる時に、キャズムが存在するとキャズム理論は示唆しています。キャズムを超えるためには、マーケティング戦略を大きく変えなくてはなりません。
この記事がみなさまのご参考になれば幸いです。