マーケティングマイオピアという言葉を知っていますか?
マイオピア(Myopia)とは日本語でうまい直訳がありませんが、おおよそ、目先のことばかり考え、先見の明が無い状態のことを意味しています。
マーケティングマイオピアは日本語に訳すと近視眼マーケティングとなります。目の前でおきる事象ばかりにとらわれ、自社が本当ならやらなくてはならないマーケティング活動や、企業の社会上の役割を狭く理解してしまうことを意味しています。
マーケティングマイオピアは、今から50年以上も前に発表されたセオドア・レビット氏の文献のタイトルです。レビット氏は文献の中で、このような近視眼的なマーケティングを展開する企業は事業機会を見逃し、やがて市場で衰退してしまうことが多いと指摘しています。
1.マーケティングマイオピア(近視眼マーケティング)の概要
マーケティングマイオピアは、MBAのマーケティングの授業でも取り上げられる有名な文献です。まずはマーケティングマイオピアについて理解を深めていきましょう。
1-1.米国の鉄道とマーケティングマイオピア
レビット氏はマーケティングマイオピアの代表的な例として、米国の「鉄道産業」を取り上げています。
米国の移動手段のほとんどが自動車です。大都市のほんの一部を除いて、鉄道での移動はとても不便です。
しかし、かつて米国の鉄道は花形産業と呼ばれていた時代がありました。歴史の中で鉄道は花形産業から衰退産業へと変化しました。
マーケティングマイオピアの中で、鉄道が不振になった主な理由は、市場そのものが小さくなったのではなく、鉄道会社が自社の事業の定義や自社の技術を狭く定義しすぎてしまったためであるとしめくくっています。
1-2.自社の事業の定義が自社の衰退につながる
米国の鉄道会社は、自社の事業を「鉄道」としてしまったことが衰退の原因だったとしています。
鉄道会社が衰退した理由は、旅客と貨物輸送の需要が減ったためではありません。旅客と輸送の需要は依然として増え続けていました。
鉄道が衰退して危機に見舞われたのは、自動車・トラック・航空機などの鉄道以外の手段にお客さまを奪われたためです。鉄道会社自体がお客さまの需要を満たすことを自ら放棄したことが原因です。
鉄道会社は自社の事業を、輸送事業ではなく、鉄道事業と考えた結果、自社の潜在的なお客さまを他社に渡してしまいました。自社の鉄道という商材や技術ばかり考えすぎたために、潜在的な自社に対する需要を見逃してしまったのです。
マーケティングマイオピアの中でレビット氏は、鉄道産業にかけていたのは、成長のチャンスではなく経営的な想像力と大胆だ、としています。製品中心の発想の危険さを指摘したマーケティング思想の文献でした。これが今から50年以上前の文献だなんて信じられません。
2.製品中心とマーケティングマイオピア
マーケティングマイオピアは米国の鉄道だけでなく、みなさんの事業にも関係があります。
特にコモディティと呼ばれる製品や産業は、製品をいかに早くキャッシュに変えることが大切です。そのために大量生産でコストを下げて利益を確保しようとします。
この発想にはお客さまや市場のニーズはなく、製品中心の発想と言えます。このような製品中心の発想では、先ほどの米国の鉄道の例と同じく、自社の既存の製品のみに着目しすぎているため、自社の製品がコモディティ化していることすら気づかないかもしれません。
このケースは、製品中心の発想であり、まさにマーケティングマイオピアの危険があると言えます。
3.マーケティングマイオピアに陥らないために
今どんなに好調の市場でも、やがて必ずコモディティ化してしまうリスクがあります。過去を見てみると永遠に成長し続ける市場はなかなかありません。
3-1.そもそも誰が成長市場を作っているのか?
成長している市場は、その市場のプレイヤーたちが成長の機会を作り出しています。そして、市場に投資できる組織を作って、適切な経営をしています。
言ってみれば、成長の機会は企業が自ら定義するものではありません。お客さまが購入という行為を通じてその市場に投資することが、市場の成長の機会です。
企業の活動、すなわち事業とは、製品を生産するプロセスではなく、お客様を満足させるプロセスそのものなのです。これがマーケティングマイオピアのポイントです。
3-2.マーケティング担当者はマーケティングマイオピアにかかりやすい
マーケティング担当者は自社の製品を愛するあまり、時に自社の製品を中心に考えてしまうことがあります。これがマーケティングマイオピアの危険なところです。
企業のマーケティングは、市場に製品やサービスを送り出すことばかり考えずに、お客さまの購買意欲を促し、あなたと取り引きしたいと思わせる活動そのものである、と考えなければなりません。
確かに製品を開発したり事業を立ち上げたりすることはとても面白いです。事業を立ち上げることは、お客さまを満足させるプロセスを確立して、皆さんと取引したいと思わせる活動なのです。
4. 有望な市場こそマーケティングマイオピアの危険がある
マーケティングマイオピアは、現在利益が十分に取れている有望な市場であればあるほど、注意が必要です。
会社や市場が成長しているときには、もっと利益を得るために生産性や拡張性など、製品や生産に関わる部分に目がいきます。
特に、技術が先行する市場では、優れた製品であれば自然に売れるという幻想が生まれやすいので要注意です。製品中心の視点になりやすく、どうしてもマーケティングや顧客への関わりが薄くなり、マーケティングマイオピアになる危険、つまり市場が衰退する危険があります。
成長や成功には必ず衰退の危機が伴っています。マーケティング担当者は、製品中心の視点にならないよう気をつけ、常にお客さまに目を向けてマーケティングマイオピアにならないように気をつけましょう。
5.さいごに
一生懸命に働いて、成功の味を知ったマーケターこそ、マーケティングマイオピアに陥りやすいのではないでしょうか?
自社の製品やサービスを愛せば愛すほどマーケティングマイオピアになり、気づいたら市場が衰退し始めてしまいます。これは、成長や成功している間に、マーケティング担当者が製品をより多くの事業上のキャッシュに変える活動、いわゆる販売活動に専念してしまうことが原因です。
常に市場や顧客のニーズに気を配りながら、お客さまを満足させ続けましょう。まさにマーケティングの基本と言えます。