PEST分析の手順とノウハウを実例で学ぶ

PEST分析とは、ある事業の戦略や計画を書く上で、事業の利益に影響を与える自社で制御できない要因を知るためのフレームワークです。「外的要因の分析に利用するフレームワーク」として知られています。

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PEST分析の概要

PEST分析の基本の理解から始めましょう。PEST分析の位置づけ、PESTの要因について学びます。

PEST分析とは

PEST分析とは、事業計画や経営戦略、マーケティング戦略では欠かせない、事業のリスクを知るために行います。自社ではどうにもならない事業環境が自社の事業の収益におよぼす影響を、効率よく把握するためにPESTというフレームワークを使ってPEST分析します。

PEST分析の目的は、事業をとりまくマクロ環境の理解と、その対処方法を知ることです。マクロ環境とは、企業における外部環境のうち、企業の自力ではどうすることもできない要因、企業活動とは無関係である要因の集合体です。

PEST分析では、業界のマクロ環境、つまり、4つの側面「P(Politics:政治)」「E(Economy:経済)」 「S(Society:社会)」 「T(Technology:技術)」を分析します。これら4つの要因の頭文字をとって、マクロ環境分析のための分析のフレームワークは「PEST」分析と呼ばれます。

PEST分析の位置付け

マーケティング戦略を作るための最初のステップは、これから立ち上げようとしている事業の環境をPEST分析することです。自力では解決できない事業の環境を知った上で、競争のやり方を考えます。競争のルールや状況を知ってから戦い方を検討する流れは、事業でもスポーツでも変わりません。

PEST分析が終わったら、自社の収益を最大にする戦略の方針をきめて、実行計画を策定します。上図に示すこの流れが、マーケティング戦略立案のプロセスです。

マーケターが業務でよく利用するフレームワーク
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PEST分析の4つの要因

PEST分析は4つの要因から成り立っています。PEST分析を手がける上で、これから紹介する4つの要因について調査する必要があります。

PEST分析のやり方

PEST分析についてより細かくみていきます。

PEST分析における4つの要因を確認する

PEST分析の4つの要因はフレームワークの要素です。PEST分析も他のフレームワークと同じく、フレームワークを使うことで網羅的かつ調べ忘れをなく分析できるため、分析そのものを短時間で、かつ、質の高い分析を可能にします。

PEST分析では、PEST分析のフレームワークの4つの要因について、調査すすめます。PESTのそれぞれで調べるべき代表的な要因について、上図でまとめました。

事実と解釈をわけて整理する

PEST分析はマクロ環境分析です。他の分析と同じく、「事実」と「解釈」をわけて整理します。

PEST分析の過程で、お客さまのインターネットサービスの利用形態について、ある営業担当者に聞いたところ、「ほとんどのお客さんが、会社のメールにスマホからアクセスできるようになっている」という情報を知りました。これは果たして事実でしょうか?

実際に調べてみたところ、この営業担当者のお客さまのほとんどがIT系のスタートアップであり、そもそもインターネットの業務利用における自由度が高い事実があるとしたらいかがでしょう。これははたして事業競争環境を正確に表現していると言えるでしょうか?

事実とは、誰からみても「そのとおり」と納得できる情報のはずです。解釈とは、ある事実をみて誰かが理解した内容です。前述の営業担当者からの情報は、事実ではなく解釈です。

PEST分析における調査結果は、事実と解釈を分けておくようにしましょう。解釈に基づいて市場環境を分析すると、正しくない判断につながります。どんなに素晴らしい戦略を策定したとしても、結果がともないません。

PEST分析では自社の収益性を左右する変化に着目せよ

PEST分析で着目すべき点は、PESTの各項目における変化です。

例えば、人口動態の調査で、今の人口を知るだけではPEST分析にはなりません。人口動態の今後の変化こそが、あなたの事業の収益性を左右する要因であり、それを知ることがPEST分析の目的です。

PEST分析では、PESTの各項目についての変化に着目するようにしましょう。「変化」と「事実」。これがPEST分析で大切なことです。

PEST分析の事例

PEST分析の例をあげてみましょう。現在当社がある新宿区四谷三丁目で、露店の本屋の事業を始めることを想定してPEST分析をしてみました。

PEST分析では、四谷三丁目書店の事例のとおり、事実を中心にしてPESTの各要素について調べます。もちろんみなさんの解釈も加えて構いませんが、その場合には必ず事実と解釈をわけておくようにしましょう。

P:政治的要因

PEST分析の最初は、P:政治的要因からです。書店をめぐる議論の中心はやはり規制や制度でしょう。

日本には再販売価格維持制度があります。書店で販売する本の価格は定価でなくてはなりません。諸外国には再販売価格維持制度を書籍に適応していない国もあります。

また、再販売価格維持制度があるため、委託販売が書店の流通の中心です。出版社が価格を決めて流通業者を通じて書店に卸します。万が一書店で本が売れなかったときは、流通業者や出版社に返品できます。書店は販売時に値引きができないため、売れ残った在庫を処分する効率的な方法がありません。そのため、買取販売するメリットが書店にはあまりありません。

E:経済的要因

多少経済要因の影響は受ける可能性はあるものの、書籍は出版社が価格をコントロールできるため、販売店の競争による値下げが原因となる利益率の圧迫はありません。

また経済の影響により本の売上への影響は小さく、2017年、紙書籍の売り上げは昨年度比3.0%のマイナスに対し、電子書籍の売り上げは16.0%のプラスになっています。

S:社会的要因

新宿区の人口は増える傾向にありますが、新宿区の調べによると、高齢者や外国人の増加割合が高くなっています。一方で、新宿区は企業も多く、労働人口が多い地区としても知られています。

また、いくつかの調査結果から、若者ほど電子書籍やマンガを好む傾向にあります。また、ネット通販での購入が進んでいる事実もあります。

T:技術的要因

インターネットとスマートフォンの普及により、電子書籍の普及が加速しています。

また、POSシステムのIT化が進み、レジ業務や会計業務が格段に効率化されました。文字判別ソフトの精度もあがり、バーコードの読み込みの仕組みを安価に構築できるようになっています。

PEST分析の注意点とコツのまとめ

さいごにPEST分析をやる上での注意点、ノウハウなどをまとめました。

PEST分析の目的を再確認する

PEST分析をしていると、あれもこれも調べたくなります。競合調査を始めてしまったり、自社の強み・弱みを考えてしまったりと、いろいろなことに手をつけたくなります。

PEST分析の目的は、自社の力では制御できない、その市場特有の環境要因をあらかじめ知っておくことです。PEST分析のために調査をしていると、あらゆる情報に興味がでて調べてしまうことがあります。あらゆる情報を調べてしまうとPEST分析に膨大な時間がかかるだけで、有益なマクロ分析の結果は得られません。

事実と解釈を混ぜない

PEST分析で調べた結果(事実)と自分の理解の内容(解釈)は、確実に分けましょう。

分析では、事実を提示すること。これが最も大切です。

すべてがPESTの要素のどこかだけにあてはまるわけではない

PEST分析で、例えば、スマホが普及している。という事実がわかります。これはT:技術要因なのか、S:社会的要因なのか、どちらだろう?PEST分析をしていると、こんな疑問が生じてきます。

上記は、TでもSでもどちらでも構いません。あなたの事業領域には、スマホの普及という状況が少なからずとも事業の収益性に関与してくる可能性があることを知ることがPEST分析の目的です。TかSかを明らかにすることは、あなたの目的ではありません。

PESTの各要因を調べていると、それぞれの要因から見える事実に相互関係があると感じることがあるでしょう。このように感じるときは、解釈であることが多く、事実とは言えません。この点にも注意しておきましょう。

とにかく今後起きうる変化に着目する

PEST分析では、現状の事実だけでなく、今後起きうる変化や動向に着目します。先程の四谷三丁目の書店の例で言えば、新宿区の人口は現在33.7万人である、という事実があります。

たしかにこの事実も事業計画を作成する上では重要ですが、PEST分析では、今後の新宿区の人口動態の変化が重要です。新宿区の人口が今後も増え続けるなら、今後も事業収益性が期待できます。

次のステップを視野に入れておく

PEST分析の次の作業は、業界環境分析です。PEST分析で明らかになるマクロ環境の視点が、自社にとって機会なのか脅威なのか、PEST分析の段階である程度視野にいれておくと、次のステップまでスムーズに進みます。

さいごに

PEST分析は、マクロ環境分析に使われるフレームワークです。さらにマクロ環境分析は業界分析や戦略などその後のマーケティング戦略立案につながる重要なプロセスになります。

PEST分析のやり方と、コツを理解しておくと、マーケティング戦略立案がもっと上手になるでしょう。みなさまもぜひPEST分析のやり方を身につけてください。

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