ロングテールを戦略として使う2つの要諦と知っておきたい注意点

ロングテールは、ドットコムバブル崩壊後にこれまでにはなかったネットを活用したビジネスモデルの例えとして使われてきました。
ロングテールは、ビジネスモデルの例えだけではなく、「ロングテールのキーワード」や「ロングテール理論」「ロングテール現象」など、マーケティング戦術を表現する用語としても利用されています。
ロングテールの基本的なことに加えて、ロングテールの使い方、注意点などを合わせてご紹介していきます。
この記事のもくじ
ロングテールが生まれた背景
ロングテールとは、ネットを活用したWeb2.0時代のビジネスの成功例を表すモデルとして有名です。
ロングテールという言葉はどのようにして生まれたのか
ロングテールの名付け親は、米「ワイアード」紙の編集長のクリス・アンダーソン氏です。
アンダーソン氏がWeb2.0時代のビジネスの象徴であったアマゾンやネットフリックスなどのネット企業として成功を収めたその理由を説明するために、「ロングテール」という言葉をある記事の中で用いました。
その後、2006年に同氏の「ロングテール」という著書が出版され、「ロングテール」が広く知られることになりました。
クリス・アンダーソン氏の著書「ロングーテール」は販売開始から10年以上経って今では文庫本として安く購入できるようになりました。もしご興味がありましたら、アマゾンなどで購入してみてください。
ロングテールの事例
従来のビジネスでは、パレートの法則を広く適応できます。
パレートの法則は、何らかの2割のリソースで、全体の8割を生み出している分布の相関、つまりばらつきの状態を示します。くわしくは「パレートの法則をあなたの仕事で活用するために覚えておきたいこと」で説明しております。合わせてごらんください。
従来の店舗を中心としたビジネスでは、売上の8割は上位2割の顧客や商品が占めることがほとんどです。この上位の2割は当然、優良顧客や売れ筋商品として重要です。
パレートの法則を適応した戦略では、上位2割を大事に育てることによって安定したビジネスを目指します。ヒット商品を中心にして事業を拡大する一般的なやり方です。
しかしながら、アマゾンやネットフリックス(オンラインのDVDレンタル)などの成功したネット企業では、パレートの法則に反して、従来の店舗では下位8割に該当する商品からも十分に売上をあげることで事業を成功に導きました。
ロングテールの事例は、アマゾンやネットフリックスなどのWeb2.0企業と呼ばれている多くのインターネット販売のビジネスが当てはまります。
それではロングテールについて、もっと詳しくみていきましょう。
ロングテールの概要
アマゾンやネットフリックスなどのネット企業では、売上高や売上数を縦軸にとり、商品を横軸にすると、その売上の分布は下図のように急速に減衰した後に、なだらかに右側に続きます。
パレートの法則の下位8割、つまり右側になだらかに長く続く需要曲線を、恐竜の「長い尻尾」(Long Tail)になぞらえました。
ロングテールの本質をしっかりと理解するためには、2つのポイントをおさえておきましょう。
ロングテールを理解するため1つ目のポイント
店頭で商品を展示する必要がなければ、お客さまが選択する際の物理的かつコスト上の制約がなくなるため、品揃えは拡大することができます。
つまり、ロングテールが適応されるビジネスでは、需要曲線の右側がずっと伸びる特徴があります。
これがロングテールを学ぶ上で覚えておきたい1つ目のポイントです。
品揃えの多い従来型の実店舗の展示の中から、自分が探している商品をすぐに見つけることは難しいでしょう。しかしながら商品を展示する必要がなければ、カタログなどの商品リストなどから、比較的容易に見つけることができます。
その結果、店舗での品揃えがますます拡大していきます。
特にインターネット販売では、Webサイト内の「検索」と「リコメンデーション」の2つの機能のおかげで、売れ筋商品にも、一部のお客さましか見向きもしない「ニッチ」な商品であったとしても、比較的簡単に見つけることができます。
検索とリコメンデーションの機能によって、オンラインショッピングでは、お客さまはほぼ無限の選択肢にアクセスすることができるようになりました。
ここで言う「ニッチ」な商品は、ロングテールの需要曲線の図における右側の尻尾(テール)の部分にあたります。
「ニッチ」な商品は、従来の物理店舗において利益が出にくい商品であったため店頭に滅多にお目にかかれることがなく、ロングテール以前には、お客さまによって掘り起こされることがない需要でした。
音楽や映像、デジタル書籍などのデジタルコンテンツには流通コストが限りなくゼロに近くなります。そのため、店頭(実際には販売Webサイト)では、数百万点のコンテンツを取り扱うことが可能です。
ロングテールと呼ばれる領域には、過去のヒット商品や、単純に本当にニッチな商品が多数含まれています。過去のヒット商品などは、選択肢の多さやコスト上の問題などの制約から、従来の物理店舗ではめったに取り扱われることがありません。
こうした制約がなければ店舗の品揃えが拡大する、というのがロングテールの1つ目のポイントです。
ロングテールを理解するための2つ目のポイント
インターネット販売では、ヒット商品だけでなく、お客さまの興味関心にあったニッチな商品も容易に見つけ出すことができるため、通常の場合と比べて、需要曲線の右側が上方に変化しロングテールの形状が強くなる傾向にあります。
これがロングテールの2つ目のポイントです。
ネット店舗は物理的制約が少ないため、これまでお客さまの需要を掘り起こすことができなかったマイナー商品の販売が可能です。訪問者は、検索機能とリコメンデーション機能によって、自分の趣味にあったニッチな商品を見つけることができるようになりました。
確かにニッチな商品の売上を集めると、大きな売上になるかもしれません。
ロングテールの中でアンダーソン氏は、従来の小売業単独では事業として成り立たないような小さなニッチ市場が集まると、やがて既存市場の規模を上回ることになるかもしれないと述べています。
ロングテールの右側の尻尾の部分が、いずれは売上の主役になるかもしれない、ということです。
ロングテールを覚えるポイントのまとめ
1つ目のポイントでは、ロングテールでは需要曲線が右方向にずっと伸びていくことを説明しました。
2つ目のポイントでは、ロングテールでは需要曲線の右側が、パレートの法則が適応できるような通常の場合に比べて、上方にシフトすることを説明しました。
ロングテールの特徴は、これらの2つのポイントからなっています。
ロングテールを理解するときに気をつけたいこと
ロングテールは、インターネット販売の普及と、検索機能、リコメンデーション機能の発展とともに、これまで以上に数多くの商品へのアクセスが可能になったことは確かです。
しかしながらインターネット販売でも、それまでと同様に、ヒット商品が存在する事実があります。インターネット経由での購買行動は、ロングテールを取り巻く議論の中では、これまでのリアル社会の購買行動とあまり変わっていません。
アマゾンなどのロングテールの代名詞と呼ばれた企業でも、やはり超売れ筋商品が「売れる」という点では従来と同じことが言えるのではないでしょうか。
ロングテールを戦略として採用するときは
インターネット販売、オンラインショッピングだからといって、すべてのビジネスにおいてロングテールが有効であるとは限りません。
また、ロングテールをねらった戦略を適応する場合でも、注意点があります。
ロングテールが適応できる分野のリスクを減らしておく
ロングテールの尻尾の部分に該当するニッチ商品のそれぞれの需要はあまり大きくありません。また、誰でも、ニッチ商品を集めて事業として成功とは限りません。
むしろ教科書的にヒット商品を生み出すアプローチの方が、世の中に情報も多く、成功する可能性が高いと言えます。
ロングテールになぞらえた戦略を実行する場合には、可能な限りコストをおさえておくことが賢明かもしれません。
ロングテールはヘビーユーザーをねらうために使う
ニッチな商品を好む傾向にある方は、一般的にヘビーユーザーになりやすいと言われています。ヒット商品のみを買い漁る方よりも、ヘビーユーザーになりやすい、ということは容易に想像がつきます。
ヘビーユーザーへ商品を提供することが目的であれば、ロングテールのアプロートは有効である可能性が高いでしょう。
お客さまがヒット商品より、ロングテール商品を好むことを期待してはいけません。むしろその反対が多いでしょう。
ロングテールが使えるマイナー商品と人気商品をバランスさせたマーケティング方法を見つけることが大切です。
派生したロングテール関連のマーケティング用語
ロングテールは、ビジネスモデルの例から、「ロングテールSEO」など別の言葉への派生も進んでいます。
ロングテールSEOの場合でも、本記事の中で説明した「ロングテールの注意点」が当てはまります。
あまりロングテールばかりに意識しないでビックキーワードにも手をつける。そのバランスは大切です。
まとめ|ロングテール
ロングテールは、少数の売上を組み合わせて、そのボリュームで売上を稼ぐビジネスにおける需要曲線の特徴を示したものです。
右側に長い需要曲線と、需要曲線の右側が通常の需要曲線よりも上方にシフトすることを覚えておきましょう。
最近では、ロングテール理論に相反する「ブロックバスター戦略」も再び注目を集めています。くわしくはいつか、このブログでも紹介したいと思っています。
(この記事は2014年1月14日に書かれたものを編集しました)