イノベーションのジレンマの仕組みを知ろう

イノベーションは、市場の拡大やビジネス拡大には欠かせません。
新しい技術やアイデア、モデルが社会や市場に登場し、新しい価値を生み出し、そして市場に大きな変化をもたらしてきました。私たちがいる現在は、過去のイノベーションの繰り返しによって成り立っていると言っても過言ではないでしょう。
イノベーションによって大きく発展する企業もあれば、そうでない企業もあります。
一般的にビジネスは、技術力や経済力があれば有利であると言われています。大企業が大企業と呼ばれる所以です。しかし、イノベーションでは、大企業が有利かといえば、必ずしもそうではありません。
むしろ市場におきたイノベーションによって、事業縮小や撤退を余儀なくされる大企業も少なくありません。
この記事のもくじ
イノベーションと顧客志向というテーマ
イノベーションは企業や市場の原動力です。
あらゆる市場には、業績が悪化する大企業もば、業績を一気に伸ばす企業もあります。
これらの企業の業績の背景では、ビジネスモデルや技術のイノベーションがカギを握ります。
大企業と呼ばれる企業に代表される事業がうまくいっている企業は、既存の顧客や市場から売上をあげて、ビジネスに大いに成功しています。
企業は、教科書通りに投資の可否を判断するなら、
市場や顧客のニーズが十分にあるか 投資する技術から十分な収益が見込めるか 社内の他の投資よりも優先すべきか
を重点的に評価します。
この投資の判断プロセスは、現状の市場や顧客に着目しています。安定したビジネスを営んでいる企業にとって、その市場での新しい技術によって得られる収益性は決して高くありません。
不確実性を排除したリスクの少ない非常に合理的な投資判断のプロセスであると言えます。
安定したビジネスを営む企業にとって、将来市場や顧客が望むかもしれない新しい技術、つまりイノベーションへの投資はどうしてもおろそかになりがちです。
企業のイノベーションへの追従の度合いは、企業の顧客志向の度合いと関係しています。
既存市場を破壊するイノベーション
市場では、新しい技術によってその業界の勢力地図を大きく塗り替えてしまうことがあります。
市場に大きな変化をもたらす技術は、新しくも、極めて難しくもない技術の場合があります。このタイプの市場に大きな変化をもたらす技術は、ハーバード大のクリステンセン氏によって「破壊的技術」と名付けられました。
技術はつねに成長する
市場の技術は時間とともに成長していきます。それに伴い市場に投入される製品やサービスの性能が向上します。
既存の技術でも、新しく市場に導入された技術でも同じことがいえます。
ゲームを例に取ってみましょう。
ゲームはハードウエア技術の成長とともに、その性能が発展してきました。据置型と呼ばれるゲームは、ハードウエアの発展に伴い、臨場感があり複雑なシナリオを持つレベルに達しました。
特にケータイのゲームは、10年前はごく簡単なゲームが非常に小さな画面でプレイできるだけでした。代表的なゲームにテトリスがありました。
今では、ハードウエアの進化に伴いスマホでも、かつての据置型と同等の性能のゲームがプレイできるようになりました。ネット接続の特性や携帯電話特有の他の機能とも融合して、スマホは据置型とは異なる進化により、新たなサービス性能を提供しています。
据置型の技術性能も、新しいケータイ型ゲームの技術性能もどちら成長し続けてきました。
市場の求める性能レベル
技術の発展のスピードに比べて、市場の顧客はその技術から生まれるサービスを使いこなせません。したがって、市場が求める性能レベルのスピードは技術から遅れることもあります。

ゲームの場合でみれば、かつて10年前のガラケーでのゲームは、画面も小さくリアルさにも欠け、ストーリーもシンプルで、市場のニーズに合致していなかったかもしれません。
しかし現在では、主要顧客の求めるレベルにまで到達してきました。特にスマホの市場拡大で一気に発展しました。
一方で据置型ゲームは、ハードウエアの性能の発展が既に市場にニーズを上回って、臨場感が十分にあり、シナリオも多く、そして多様な操作が可能になりました。むしろ性能が十分すぎるとも言えます。
技術性能の成長スピードが、市場の求める性能レベルの成長スピードよりも早かったため、ゲーム市場が据置型とケータイ・ゲームの勢力を塗り替えてきました。
イノベーションとジレンマ
なぜ安定した企業が、有望な新しい市場を創る技術に乗り遅れることがあるのでしょうか?
多くの新しい技術は、市場の裾野(下位層)に認められ市場に参入します。機能や性能が十分ではなくても、安いならOKといった下位の市場ニーズに適合します。
この段階では、市場の上位層にいる顧客は見向きもしません。そして市場で安定したビジネスを営む企業は、現在の顧客から十分に高い利益を得ているため、リスクを犯してこの新しい技術を認める市場をみています。
ゲーム市場では、ケータイのゲームの価格は10年前は月額200-500円程度でした。半年プレイし続けても6,000円程度にしかなりません。開発費や広告宣伝費を考えれば、薄利多売市場には関心が無いのも当然です。そしてこの破壊的技術への取り組む機会を逃します。
しかし、下位層をターゲットとしていた技術の性能が向上し、徐々に上位層の市場ニーズまで捉えるようになります。これまで無防備だった安定企業は、対策を余儀なくされます。
既存の技術に注力していた安定企業のコスト構造は、新しい破壊的技術を支える企業よりも割高なコスト構造を持っていることが少なくありません。単純なコストよりも、事業のコスト構造がネックになり、なかなか技術シフトが進まないのです。
これは安定企業にとってまさに「ジレンマ」です。「イノベーションのジレンマ」とはまさにその本質をついた言葉といえます。
イノベーションのジレンマの事例
イノベーションのジレンマの事例は、いろいろなところにあります。新しい技術と企業名を見れば、すぐに思い浮かぶでしょう。
例えば、デロイトさんの「日本テクノロジー Fast50(PDF)」などは非常に参考になります。
このランキングは過去3年間の売上の成長率にもとづいています。ゲーム、ソーシャル、オンライン広告関連が目立ちます。従来のゲーム、従来の広告あたりが大きく変化しています。
背景にはどんな技術があって、市場のニーズとどちらの成長スピードが早いでしょうか?
さいごに|イノベーションのジレンマ
イノベーションのジレンマは、ネーミングが秀逸です。
市場で安定したビジネスを展開する企業は、主要な顧客ニーズへの対応に気を取られるあまり、新たな成長市場を創る重要な技術がみえなくなりがちです。
その技術はやがて破壊的技術として、既存市場の勢力図を塗り替えてしまいます。
あなたは、顧客志向とイノベーション志向のどちらを選びますか?