アンカリング効果とは?ビジネスでの活用例や実践方法をわかりやすく解説

私たちはセールの品物を買うとき、値引き前の価格が書いてあるとなぜお得だと感じるのでしょうか。その理由は、「アンカリング効果」にありました。

今回は、価格比較の心理学「アンカリング効果」についてご紹介します。

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アンカリング効果の概要

まずは、アンカリング効果の概要について理解を深めましょう。

アンカリング効果とは?

あなたは、1本300円のコーヒーが売られていたら、どう思いますか。

多くの人は「高い」と思うでしょう。なぜなら、缶コーヒーの適正価格は100円〜150円だからです。

私たちの中には、「基準」となる価格があります。「基準」はもともと抱いていることもあれば、ある情報によってできることもあります。ヒトのもつこのような「基準」を、心理学では「アンカー」と言います。

アンカリング効果とは、最初に提示された数字や条件が基準となり、その後の判断を無意識に左右する心理作用です。

アンカリング効果は強力な心理作用で、数多くの学術検証による裏付けがあります。また、アンカリング効果は、マーケティングや営業の現場で、よく使っています。

身近にあふれるアンカリング効果の例

アンカリング効果を使った広告は、身の回りにあふれています。あなたは、下図のような広告を見たことはありませんか。

この広告は、元の値段の19,800円が基準になり、お客さまは9,900円がとてもお得に感じられます。価格に適用したアンカリング効果の例です。

アンカリング効果の用途は広告だけにとどまりません。あなたも無意識にアンカリング効果を使っているかもしれません。

あなたは、「遅刻をするときは、予定到着時刻よりも少し余裕を持って伝えるように」と先輩や上司に教わったことはありませんか。

本来の到着予定時刻よりも余裕を持って到着時刻を伝えることは、アンカリング効果を利用する上でも有効です。

あなたが「30分遅刻します」と相手に伝えた場合は、30分がアンカーになります。ぴったり30分で到着したとしても、相手の怒りは収まりません。

到着に30分かかりそうな場合は、「45分遅刻します」と伝えましょう。45分がアンカーとなるため、あなたが30分で到着すれば、相手は「遅刻したものの急いで来てくれたのだな」という印象を持ちます。

ただし、アンカーは「本来の到着時刻よりも遅ければ何でもよい」というわけではありません。本来30分で到着するところを、「1時間で到着する」と伝えれば、「時間の計算もできないのか」と相手を怒らせてしまう原因になります。

アンカリング効果を使うときは、到着予定時刻よりもほんの少し遅らせた時刻を伝えるようにしましょう。ただし、そもそも遅刻すべきではありませんので、アンカリング効果をうまく活用するよりも、遅刻しないように心がけましょう。

アンカリング効果を証明する実験

この章ではアンカリング効果の影響力がわかる実験を、2つご紹介します。

オークションにおけるアンカリング効果の実験

MITのダン・アリエリー教授は、オークションを使った実験でアンカリング効果を実証しています。

彼はオークションが始まる前に、被験者に各自の社会保障番号の下2桁を書かせ、「その数字分のドルを支払うかどうかを考えてくれ」と伝えました。

社会保障番号の下2桁が90だった場合は90ドル、12だった場合は12ドルといった具合です。

実験の結果、オークションの直前に見た社会保障番号の下2桁が、被験者の入札額に大きな影響を与えていることがわかりました。

下2桁の数字が大きい被験者は、数字が小さい被験者に比べて、約50%入札額が高かったのです。

ルーレットを使ったアンカリング効果の実験

アンカリング効果の影響力がわかるもう一つの実験は、ノーベル経済学賞を受賞したダニエルカーネマン教授のルーレットを用いた実験です。

被験者は、0から100までの数字が書かれたルーレットを回します。このルーレットは、10か65にしか止まらない細工がしてあります。ルーレットで10が出た被験者は10と記録し、65が出た被験者は65と記録しました。

その後、被験者は以下の2つの質問を受けました。

1.国連加盟国のうちアフリカ諸国が占める割合は、今記録した数字よりも大きいか、小さいか。
2.国連加盟国のうちアフリカ諸国が占める割合は何%だと思うか。

10という数字を記録した被験者らは、国連加盟国のうちアフリカ諸国が占める割合は、平均で25%と回答しました。一方で、65を記録した被験者らは、平均で45%と回答したのです。

この実験でも、直前に見たルーレットの値が、被験者の判断に影響を与えていることが示されました。

アンカリング効果の活用例

アンカリング効果は、ビジネスに広く用いられています。この章では、アンカリング効果の活用例をご紹介します。

アウトレットモールのアンカリング効果

アンカリング効果を使って成功した小売業の1つに、アウトレットモールがあります。アウトレットモールでは、商品原価の表示とともに、多くの商品が数十パーセント以上の割引率で売られています。アウトレットモールはまさに、アンカリング効果を存分に活用しています。

私たちは20万円の商品を半額で購入したとき、10万円ではなく20万円の価値を感じます。商品を割引で販売する場合は、メーカーの販売希望価格なども目につくように表示しておきましょう。

あなたが割引をする予定がない場合、「アンカーとして機能する商品を作る」という方法もあります。詳しくは、「アンカリング効果を実践する6つのステップ」でご紹介しています。

コンサルティング料金のアンカリング効果

アンカリング効果は、コンサルティングビジネスで高い効果を発揮します。アンカリング効果がコンサルティングビジネスで効果的な理由は2つです。

1点目は、コンサルティングサービスの品質が標準化しづらいことです。コンサルタント同士の比較は難しく、お客さまは想定価格がはっきりとわかりません。

2点目は、アンカリング効果を使って見積もりを複数出しても、お客さまに違和感を持たれないことです。通常コンサルタントは、お客さまに応じた価格相場をいくつか用意しています。

コンサルティング料金の見積もりは、「高価格の見積書(Aパッケージ)」「標準価格の見積書(Bパッケージ)」「低価格の見積書(Cパッケージ)」の3種類を用意しましょう。

ここでの目的は、Bパッケージにお客さまを誘導することです。

Bパッケージにお客さまを誘導するために重要な点は、AパッケージはBパッケージよりはるかに高価格に設定し、BパッケージとCパッケージには価格差をつけすぎないことです。Aパッケージが高価格でなければ、Aパッケージはアンカーとして機能しません。また、Cパッケージが安すぎると、お客様は主要価格帯の判断に悩みます。

このような見積書があった場合、アンカリング効果によってBパッケージが選ばれる可能性が高くなるでしょう。しかし、Aパッケージが選ばれた場合も、お客さまの信頼を裏切らないように、価格以上の価値を提供できるようにしておかなくてはなりません。

アンカリング効果を実践する6つのステップ

ここまでで、アンカリング効果をご理解いただけたと思います。この章では、どのようにアンカリング効果を実践すればよいのか、6つのステップに分けてご紹介します。イメージしやすいように、コーヒーチェーン店の出店を例に考えてみましょう。

1.データを収集する

まずは、競合類似商品の価格帯をできるだけ詳しく調べましょう。今回は、コーヒーについて調べます。下図は一例です。

2.価格調査をする

データを収集したら、競合類似商品の価格帯を整理します。ポジショニングマップを作ってもよいでしょう。

3.顧客の購入プロセスの検証

お客さまはどのように商品を購入するのかを考えましょう。ネットで検索して、検討してから購入するのか、店頭で購入するのか、自社製品は類似の他社製品と一緒に店頭に並んでいるのかなどを検証します。

今回は、コーヒーチェーン店の出店なので、検討期間は短く、店頭購入です。

4.高額な新商品を陳列できる場所を確保する

自社の店頭販売やオンラインショップでの販売ならば、新商品を陳列できる場所の確保は簡単です。自社の標準価格の商品よりも少しだけ目立つところに、上質な商品を陳列します。

小売店で商品を販売している場合は、小売店に頼んで標準価格商品のとなりに高価格な商品を陳列してもらうのも一つの手です。

5.自社の標準商品よりも高価格なアンカー商品を設定する

自社商品の標準価格よりも100%から200%高額な商品を、高価格商品として開発します。1杯280円のコーヒーならば、1杯560円から840円程度の高額な商品です。価格に見合う上質な商品を打ち出すことが重要です。

さらに、超高価格商品も1つ作りましょう。超高価格商品は、既存の商品を組み合わせて、お得なパックのような形にしてもよいでしょう。

今回の例では、1杯280円のコーヒーが標準商品です。高価格商品は、厳選されたコーヒー豆だけを使用した、1杯600円のプレミアムローストコーヒーです。そして、プレミアムローストコーヒー1杯に加え、家庭でもお店の味が味わえるコーヒー豆付きのクリスマスパックを1つ1,200円に設定し、これを超高価格商品とします。

1杯600円の高価格商品は高すぎると思われるかもしれません。しかし、280円の標準商品の高価格商品として、400円の商品を販売してもあまり効果はありません。価格差が小さいと、商品に対する本質的な価値評価が変わらないからです。本質的な価値評価が変わらなければ、お客様は高価格商品として認識せず、商品を単純比較することになります。

6.アンカーの有無による顧客行動の差を検証する

最後に、アンカリング効果を使った場合とそうでない場合の、顧客行動の差を検証しましょう。検証のやり方はさまざまですが、「高価格商品と標準商品の売り上げ比率」や「高価格商品の購入者割合」「アンカリング効果を用いる前と後の売り上げ比較」などは検証できます。

アンカリング効果の問題点・注意点

最後に、アンカリング効果の問題点や注意点について確認しましょう。

アンカリング効果は商品全体の価格認識に影響を与える

もしあなたが高価格のアンカリングを行えば、お客さまは「お手頃な価格で買える店」という印象は持たないでしょう。

3万円のジャケットを販売している店で、半額の1万5千円のジャケットが見つかれば、「買わなければ」と思うかもしれませんが、「3万円のジャケットを売る店」という印象は持たれます。

そして、1度アンカリングを行えば、お客様からそのイメージを払拭することは非常に困難です。

二重価格表示をしないこと

あなたは街角で、「当店通常価格10,000円の品を、今だけ50%オフで5,000円」のような表示を見たことはありませんか。このように、販売価格を参考となる価格と同時に表示することを「二重価格表示」といいます。アンカリング効果をうまく活用するためには、二重価格表示は必須です。

この商品が本当に1万円で売られている品ならば問題ありません。しかし、本来5,000円で販売している商品を、通常価格1万円と表示して販売していれば、景品表示法違反となります。

消費者庁の価格表示のガイドラインによると、二重価格表示をする際、比較対象として用いることができる価格は主に3つあります。

1つ目は「過去の販売価格」です。同一商品について、最近相当期間にわたって販売されていた価格を比較対象価格とする場合は、不当表示には当たりません。セール開始時点から過去8週間のうち4週間以上の販売実績が、「最近相当期間」の1つの目安となるようです。

2つ目は「メーカーの希望小売価格」です。メーカーが設定した小売希望価格を比較対象価格とする場合は、不当表示には当たりません。

3つ目は「競合事業者の販売価格」です。「地域内の事業者の相当数が実際に販売している価格」、もしくは「特定の競合事業者が実際に販売している価格」を比較対象価格とする場合、不当表示には当たりません。特定の競合事業者を比較対象価格とする場合は、事業者の名称と事業者の販売価格を明示する必要があります。

長期間のアンカリングは当たり前になる

Amazonはもともと、2,000円未満の注文に対して配送料を取っていましたが、2010年ごろ配送料無料のキャンペーンを始め、キャンペーン終了後も引き続き配送料無料を続けていました。ところが、2016年の4月、Amazonは突然配送料を有料に戻したのです。

当初配送料無料キャンペーンをありがたがっていたユーザーは、5年かけて「配送料無料は当たり前」と思うようになりました。配送料が有料化された際は、もちろんユーザーからの不満が噴出しました。

このように、長期間にわたるアンカリングは、お客から「あって当たり前だ」と思われることになるため、注意が必要です。

アンカリングが効きづらい商品がある

アンカリング効果は万能ではありません。参考価格がはっきりしている商品は、アンカリングが効きづらくなります。

参考価格がはっきりしている商品とは、缶コーヒーやペットボトルのジュースなど、相場がわかりやすい商品のことです。逆に、先ほどご紹介したコンサルティングサービスなどは、アンカリングが効きやすい商品と言えます。

アンカリング効果を活用する前に、アンカリングが効きやすい商品かどうかは考慮する必要があります。

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